オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ(2013)
気づいたら7月一本も書いてませんでした…。いや、書こうとしてたんですがどうもレビューの方向性に疑問が出てきて書きあぐねていました。まぁ今回はいつもの調子でいくんですが。
そんな感じでもう一本、ジャームッシュの近作を取り上げます。前回と順序が逆ですが、2013年の作品。実は長いことノーマークで最近観たのです。
オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ : 作品情報 - 映画.com
過去10年にジム・ジャームッシュ監督は『リミッツ・オヴ・コントロール』(2009)、本作(2013)、そして前回紹介した『パターソン』(2016)という3作の劇映画をとっているのですが、私はこの『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』が一番お話としてわかりやすい、と思いました。
どんな感じかというと
- デトロイトとモロッコのタンジェ(タンジール)という超長距離恋愛をするアダムとイヴのふたりのヴァンパイアのお話。
- 長距離恋愛と書いたけどこのふたりはもう何世紀にも渡って夫婦。
- ”上物”(汚染されていない)血を飲むことを無常の喜びとしながら(吸血鬼なので)ふたりとも芸術を愛して生きている。
- ある日気が滅入って死を意識した発言をしたアダムを見かねてイヴがデトロイトにやってくる。
- 夫婦水入らずで久々のときを過ごそうとした矢先、トラブルメーカーである妹のエヴァが押しかけてきて…。
という感じです。
ポイントとしては、
◆ 万人向けのシンプルなストーリー
吸血鬼を題材にしてゴシックなテイストをたたえながらも、愛し合うふたりの身に起こるお話はすごくシンプル。起承転結のある、王道の映画といっていいでしょう(きち〜んと落としてるエンディングも大好き!)。
特にアダムの口から語られる”ゾンビ”たち(人間のこと)の話に着目してみると、異形のものの視点を借りて人間社会のおかしさや消費文明の虚しさを痛烈に批判した作品、ともとれますが、私はそういう風に見ませんでした。もちろん監督の視点にそういった批判精神が含まれていることは確かですが、それは今回のメインではなく味付けに過ぎず、あくまで「アダムとイヴによるラブストーリー」として楽しんでいいのかなと思います。
いづれにしても、大げさな表現は使わず淡々と物語が進行していく様は見方によってはちょっと退屈かもしれませんが、それを差し引いてもなお万人向けの映画に仕上がっていると私は思いました。
◆ アダムが超かっこいい
ある意味この映画のゴシックな雰囲気を一身に背負っていると言ってもいいのが、トム・ヒドルストン演じるアダム。これが!ものすごいはまり役だと思いました。長髪で常に黒装束、そしてディストーションとディレイのかかったギターでダウナーなリフを奏でる………いやこれ全然ヴァンパイヤちゃうやん!というツッコミもあるんですけど、とにかくロック好きにはたまらない魅力をアダムは放ってます。グランジなのか微妙ですけど彼の書いた曲と(これはグランジじゃないんですけど)かける曲も最高でした。ジャームッシュ監督のセンス、さすが!
◆ いちいち細かい設定が楽しい
いきなりヴァンパイヤと関係ない魅力を挙げてしまいましたが、それでも”ヴァンパイヤ映画でなさそうで、でもやっぱそう”な映画なのは、細部までこだわってきっちり世界観を作っているから。そういう意味でなかなか奥行きのある作品なんですが、とりあえず大好きな人はこういう細かいギミック、大好きだと思います(私は大好き派)。
- 永遠に生きるため自作を発表していないアダム。昔書いたものはショパンとか、著名な「友人」たちが自分のものとして世に出しているということに。
- ”誰にも知られてはならない”アダムのアパートの電気はすべてニコラ・テスラが開発したエコエネルギーによってまかなわれている。
- 触れたら楽器の歴史を読み取るイヴの能力。
- 2人の友人であるおじいさん(ジョン・ハート)は、イギリスの伝説の作家、クリストファー・マーロウ。その生涯に謎も多い人物ですが、実際にはヴァンパイヤになってました、という設定。
◆ エヴァが小悪魔すぎてつらい
それから!特筆すべきぐらいミア・ワシコウスカがかわいすぎ。いや、まさに小悪魔(ヴァンパイヤなんだけどね)。これでもかーって勢いでめんどくさい女子キャラを嬉々として演じてるんですが、彼女が登場している間だけは場違いなキュートさがアダム&イブのふたりとずれてて(最後まで噛み合わない)おかしさも倍増しています。
Only Lovers Left Alive- Adam is NOT Taking You Out (Tom Hiddleston and Mia Wasikowska) - YouTube
ひとりだけなんかずれてる。
ちなみに彼女の出演作では、これが一番好き。考えてみるともともとはゴシックなテイストが似合う人でした。
といったところ。
そんな本作、ドイツのNRW Filmstiftungが出資して作られた作品なのでエンドロールにドイツ人の名前がたくさん出て興味深かったです。(NRWはノルトライン・ヴェストファーレン州のことで、私が住むデュッセルドルフに本部を置く映画・メディア財団。有名な作品にもかなり携わっているのでこのロゴマークをエンドロールで見たことがある人もいるかもしれません)