A Dose of Rock'n'Roll

いろんな国の映画について書いています。それから音楽、たまに本、それとヨーロッパのこと。

ダンケルク(2017)

今年あたまに劇場で予告編を見てからずーっと期待していた映画を観てきました。

 

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総合オススメ度         ・・・ ★★★★☆

映画館で映像に圧倒されるべき度 ・・・ ★★★★★ 
 
*** 

第2次世界大戦のはじめの方、英仏軍による”史上最大の撤退作戦”をスリリングに撮ったなかなかの1本(もちろん実話。迫り来るドイツ軍に追いつかれまいとして必死に行動する兵士たちの「恐怖」を描く。

そう、この「戦争状態での恐怖」という人間心理を徹底して描く、そのためだけの作品。実際にはそれ以外の要素も盛り込まれているのだが、蛇足だったと言い切れる。それを確信させるだけの監督のテーマに対する熱意が伝わってくる力作だ。

 

セリフは少なめ、というよりも台詞回しによる劇の進行、主人公と他の人物の応酬による物語を展開していない。劇らしくない劇といえばわかりやすいか。

お芝居の代わりに観客が観るのは、敵からの銃撃、突然の爆発、海中から浮上しようともがく兵士たち、つまり「戦争の空間」である。あたかもその空間に身を置いているかのような臨場感を味わうことで劇中の人間の心理がわかる、というのは文字で書くと映画として当然のように思われるが、実際にそれだけのリアリティを持った映画というものは決して多くない。本作はそうした意味での「成功作」として一見の価値があるし、特に「空間」を感じさせる撮りかた・演出に細部に至るまで念入りに検討していることに感心させられる。私も実際に映画が始まってから30分、久々にスクリーンに”釘付け”になった。

 

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ただ、これを傑作!と言い切れないのは、終盤の演出が打って変わって陳腐になるため。もちろん史実として撤退が成功したのは事実なんだが、そこでいきなり「感動の秘話」みたいにしてしまうのはどうか。助かった人々は本当に良かったと思うものの、それまでにたくさんの兵士が死んでいっているところはきちんと見せてるわけで、突然のヒューマニズムの表出には大いに疑問。

序盤〜後半までの、あえて主人公を置かず、個人の物語に帰趨させずに人間心理を描いた巧みな表現を無に帰す異様な展開だと思った。

 

…のだが、ノーラン監督も不本意だったのでは?

そう思うと、クリストファー・ノーランをしてもそうなの?配給会社はこうしてまとめないと納得しないわけ?という映画業界に対する絶望にも似た気持ちが湧き上がってきました。。

 

あと、最後のトム・ハーディのシーン、あれは私が編集だったら1回目の試写で絶対にカットする。あれはひどい。先述したようにこの映画が持つ力というのは個人の物語に拠らない人間心理の描写をしていることになるわけで、少なくとも有名俳優をあんな風に画面に登場させるのはダメでしょう…(それから彼が乗る戦闘機が浜辺を飛ぶシーンの安っぽさ!)。

 

なんか、最後の30分でそれまでの作家の主義を突如つくがえした「うぉぉぉ!?」な映画でした。そうは言っても今年公開の作品の上位には入る出来栄えで、一見の価値あり。日本では9月9日公開です。