A Dose of Rock'n'Roll

いろんな国の映画について書いています。それから音楽、たまに本、それとヨーロッパのこと。

Irina(2018)

ワルシャワ国際映画祭で観た1本目。5本鑑賞した中でもっとも私が気に入った1本でした。原題はブルガリア語なので”ИРИНА”となります。同映画祭では審査員特別賞を受賞。

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Irina (2018) - IMDb

 

ワルシャワがインターナショナル・プレミアでしたが、先行してブルガリア国内の映画祭で上映されたようです。こちらのリンクも貼っておきますね。

IRINA - 36TH GOLDEN ROSE BULGARIAN FEATURE FILM FESTIVAL

  

 

あらすじ: ブルガリアの田舎町で夫と幼い子供、そして姉の4人家族で暮らす女性、イリーナ。勤め先のレストランでは食べ物を盗んで帰ったり食べ残しを犬の餌として売ったりしながらなんとか糊口をしのいでいる。暖房費節約のために、ストーブに使う石炭も違法とは知りながら自宅の庭で夫が採掘するほど。そして、ついにレストランでビールや食べ物を盗んでいたことがオーナーに発覚し職を失ったその晩、地下の採掘場が崩落、夫が両足を失い外出も困難になってしまう。このままでは生きていくことができない。家族を守るために最初は売春も考えたイリーナだが、最終的には破格の報酬を求めて、インターネットで見つけた代理母に応募することにするーー。

 

ブルガリア発の、1人の強く生きる女性を生き生きと描いた佳作。過剰なBGMや演出、あるいはドラマチックな脚本はなく一見淡白な映画にも見えるが、実際はそうでもない。生活を守るために”代理母”になることを選んだイリーナの行動の変化、その中で見えてくる変わらない彼女の”芯の強さ”、そんな彼女を受けて少しだけだが変わっていく周囲の人間たち、そして最後に見える彼女なりの「幸せ」に胸が熱くなる。実はすごく情熱的な映画なのだ。

 

そんな主人公を演じたマルティナ・アポストロヴァ(Martina Apostolova)さんがワルシャワ国際映画祭では特別審査員賞(Special Jury Award)を受賞。本作を鑑賞した人ならそれには納得ができるだろう。この映画は徹頭徹尾「イリーナ」という女性をテーマにしており、映画の世界観そのもの=イリーナ自身になりきった熱演は素直に拍手を送りたい。彼女の演技によって、悲観的に見えながらも楽観的な、つかみどころがないように見えてもしっかりと「思い」を抱えて自分自身の人生を生きる、ブルガリアの片田舎に住む人の代表を超えたイリーナという個性が作り上げられた。

 

日本での公開やDVDスルーがあるかは未定だが、ぜひ期待したい。欧州でつくられた”市井の人に題材をとった”静か目なアート映画が好きな人には(そんなにいない…こともない?)ぜひオススメしたい作品だ。

 

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上映前に登壇された監督と主演の2人。

 

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ソフィアにバスで向かうシーンがあり、そんなにど田舎ってわけではないのかな?(自分たちで石炭掘ってたけど…)と思いましたが、IMDbによればロケ地はここ(ペルニク)らしいです。確かに地図で見るとそこまで離れてない。貧困を発端としつつもそれを深く掘り下げるような映画ではなかったのですが、それでも普段他国ではなかなか知れないブルガリアの生活事情を垣間見れるという意味でも貴重な作品かもしれません(こういった映画マイナー国からの作品はどれもそうだけど…)

たとえば日本やドイツなんかから見たらソフィアって別段大都会でもなんでもないわけですが、その首都がやっぱり別の都市から見たらすごく都会として写っていたことが、個人的には印象的でした。