A Dose of Rock'n'Roll

いろんな国の映画について書いています。それから音楽、たまに本、それとヨーロッパのこと。

オーディション(1999)

先日、長年探していた三池崇史監督の『オーディション』をようやく観ることができました。日本にいたときはなぜか流通が少なく、未見作品の中古VHSを高値で買うほどでもなかったので、興味を持ってからもう10年以上観れずにいたのでした。
調べてみたら最近はAmazonでも配信されてるし、DVDも割と普通に手に入りそうですね。変わったもんだ…(良い時代になったのかどうかは…知りません笑)

 

そんな本作、海外ではなかなか有名な作品で、数々の「もっとも怖いホラー」ランキングの上位や”邦画では唯一”に選ばれています。ロッテルダム映画祭での上映では観客が「悪魔!」と出席した監督に詰め寄ったというエピソードも残しています(Wikipediaより)。

 

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AUDITION オーディション : 作品情報 - 映画.com

(このドイツのDVDパッケージが好きなのでこちらを上げときます。公開時のポスターや日本盤DVDは結構テイスト違います)

 

!! 以下、あらすじに加えてネタバレも含んでいます !!

 

 

 

で、肝心の中身はというと、確かに怖かった。

ただ、実際には私が勝手に予想していた”伝説”とは割と違う趣の作品だったな、という感想です。

いや、怖いは怖い。それに痛い。ホラーが苦手な人はもちろん、そこそこホラー見慣れてる人でもダメかもしれない、という程度には怖かったし辛かった。しかし、注射器を持つ主人公のパッケージから連想する「目を背けたくなるシーン!怒涛の100分詰め合わせ!」みたいな作品では全然ありませんでした。むしろ、尺だけとってみると激烈なシーンは最後の30分足らず。なので、”痛い”とか”グロい”だけを求めてる観客であれば、不向きな作品とまでいえるかもしれません。

でもしかし(否定重ねてすいません)、怖い映画であることは間違いなく、派手な残酷描写を売り物にしたB級ホラーなどではない、本物の恐怖が味わえる上質な作品に仕上がっています。

 

とりあえず、あらすじを紹介しておきますね。

妻に先立たれ男手一つで7年間息子を育ててきた青山は息子に勧められたことで再婚を考え出す。友人である吉川に「時間をかけて理想の女性を探したい」と相談したところ、なんと映画のオーディションを行い、その中から相手を探してはどうかという。驚きながらも結局映画プロデューサーである吉川とともにオーディションを進めていく青山。自宅で履歴書に目を通していたところ、”山崎麻美”という女性の書く「怪我によってこれまで自分の人生そのものだったバレエの道が絶たれたことは、オーバーではあるが死を受け入れることに似ていると思う」というプロフィールに心惹かれるのだった。
実際にオーディションを開始し、ほとんど最後になって現れた麻美に青山は思わず積極的になってしまう。吉川は呆れ顔をしながらも「どこか気になる」といってあまり乗り気ではない。青山は彼女に電話をして何度か食事にも出かけ万事快調に見えたが、吉川は麻美が答えたレコード会社の担当者が失踪していることなどから「ちょっと待った方が良い」と制止する。有頂天の青山はこの忠告も意に介さず、週末に麻美と旅行に出かける。ホテルの一室で麻美は無言で服を脱ぎ、太ももにある傷を見せ「私だけを愛して」と何度も念を押す。ここで関係を持ったはずなのだが、青山が次に気付いた時にはすでに深夜でホテルのフロントからの電話で起こされたのだった。フロントによれば麻美はもう帰ったという。
それ以後連絡もつかなくなった麻美の行動を理解できない青山は半狂乱になり、彼女に関係ある場所を訪れる。最初のバレエ教室では車椅子の不気味な男が現れ、次に訪れた勤務先のバーは1年ほど前にママが殺されて閉店したという。何かがおかしいと感じ頭をかかえる青山だったが、自宅で1人でウイスキーを飲んでいる夜、昏倒してしまう。薬が守られていたのだ。
そこに現れたのはもちろん麻美。黒い手袋と前掛けをした彼女は青山を「愛しているのは私だけじゃないじゃない(息子がいること)」と詰り、「痛みだけが真実」と告げながらそれは楽しそうに凄惨な拷問を開始するのだった……。

 

書き出すと長くなってしまいました。。

恐怖にもいろんな種類があるわけですが、本作が表しているのは「狂気」。それも生身の人間のものです。超シンプルに言って、椎名英姫(現在はしいなえいひ表記)さんの演じる「麻美」がとにかく強烈に怖い。外で会っているときの線は細いけど明るい笑顔、ベッドで見せる悲しみと期待の入り混じった表情、そして最終的に現れた「解体屋」としての姿。どれもが渾然一体となって最後の30分、悪夢となって襲いかかってきます。「渾然一体」と書いたのは単純に裏があるとか二重人格だ、とかではなく「訳はわからないけど彼女の中ではつながってるんだろうな」と思わせるのと、逆に「彼女の中では筋が通っているのだからもう何言ってもダメだろうな」という絶望がわいてくるからです。

最終的に麻美は予想外に帰宅した息子によって階段から突き落とされ死んでいくのですが、うつろな表情で「すみません、浮かれてしまって」と青山とデートで話したセリフをつぶやき出します。ここも「つながってるんだ」と思わせる場面で、悲しくはあるのですが(でもなんでさっきまでの殺人鬼がやられたのに”悲しい”んだろう…?)鳥肌の立つ場面でした。

 

怖い場面について、拷問シーンのヤバさについては詳しくは省きますが、フライヤーにも書かれている「キリキリキリキリキリー、痛いでしょう」は極め付けでした。正直、こんなに歌うように発されるセリフとは思ってもみず…………思わず目も耳も塞ぎたくなるシーンです。

 

この当時(初の上映は99年)そういう言葉があったかどうかわからないのですが、まぁ一言でいうと「メンヘラ女の理不尽な復讐」なんですよ、これって。(「私の全部をあげても、あなたは私の全部になってくれないのね。みーんな同じ。」なんて象徴的ですよね?)ありふれちゃいけないんですけど、でもホラーとしてはよくある設定と言ってもよいでしょう。

だがしかし!その拷問のユニークさとその際にも「若い女性の顔」を崩さないところで麻美は一線を画しています。大抵、こういう”本性見せてくる”部分では般若の顔になってたり「アハアハアハ」みたに壊れてたりするんですが、あくまで麻美は自然体。”キリキリ”するところでは青山ではなく彼女の顔のクローズアップがずっと写っているのですが、とっても興味深そうでいかにも若い女性らしい表情なんですよ。壊れてる感じが全然しない。逆説的に、その「ホンモノ感」が圧倒的でした。

ここはもう、椎名英姫さんの一世一代の熱演を褒め称えたい。もしかしたら本人は不本意かもしれませんが、少なくともホラー映画史には立派に残るキャラクターでした。(”ほら、目の下もとても痛いでしょう”というマジでヤバいセリフに続いて)自分がどんな人間かがわかるのも、苦しいことや辛いことだけなの。うんと辛い目にあったときだけ、自分の心の形がわかるのよ」という名言はなんだか折に触れて思い出してしまいそうな気がします…。(この辺、このキャラクターをつくった三池監督の功績はもちろんなのですが、原作未読なのでどれぐらい村上龍氏の貢献があるのかわからない)

 

ただ、この映画の怖さはそれだけではありません。冒頭で紹介した「悪魔!」と観客に叫ばせたのは、登場人物の振る舞いというよりも、徐々に迫ってきて後半突然に不条理な悪夢に突き落す、監督の演出によるところが大きいように思います。

まず、「徐々に」の部分。まぁ、そもそも友人の吉川が「オーディションやろう」というアイデア出すのも十分怖いんですけど、何より若い女性に似つかわしくない、電話と大きな袋だけが置かれたボロボロの和室に麻美がうなだれて座り込んでいるシーン。これが何度も挿入されて(しかもこの袋、動きます……)観客の不安を煽ります。それなのに1時間以上も基本的には甘めのメロドラマが続くのです。この座りの悪さ。さらに、麻美が消えてから突然やってくるおどろおどろしい展開。青山が実際に体験していることでないのに、麻美の過去?と思われるシーンが観客にはなだれ込んできます。ここに青山の隠していた後ろ暗いものもないまぜになっていき、まさに悪夢に。”拷問”に到るまでに断片的にこのような映像が挿入されるのですが、同じ場面をもう一度見せ、その中で麻美がまったく違うことを話している、というところが特にポイントでした。観客に何が真実か混乱させ、その上で「痛いことだけが真実」という現実を見せつけるという、相当メンタルにチャレンジしてくる構成になっているというわけです。それならまだ悪夢から目覚めないほうがましだったね、っていう………。

 

うーん、書いてみましたが、やっぱりかなりキツい作品だということを再確認しました(笑)。それでも不思議なことに「名作だった」という満足感が残っていて意外なほどもう一度観たい映画だったかもしれません。国内ではえらいマイナーな気がするんですが、昔よりも流通しているみたいなので、ぜひとも”三池崇史の代表作”として知名度が上がって欲しいな、なんて思っています。

 

 

 

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そうえいば、原作は村上龍なんですね。未読ながら、映画はそのままの内容だとすると確かにうなずけるかも。『ピアッシング』思い出すなあ。あ、そういえば私の大好きなミア・ワシコウスカ主演で最近映画化されましたね。トレイラー観る限りは気になるなあ…。