ミッドサマー(2019)
以前に紹介した(そして絶賛した)『ヘレディタリー』のアリ・アスター監督が早くも新作長編を公開!
というわけで観てきました。
!!! 以下ネタバレを含みます !!!
感想は、100点!
…いや、いきなりすいません(笑)。
こう書いたのも満足度がそれだけ高かったから。映画として100点かどうかは観る人にもよると思うのですが、「ヘレディタリーの監督の続編」としては100%期待に応えてくれた作品だったといえるのです。(あっちなみに100点満点中の100点ですからね。笑)
→ アリ・アスター監督の長編デビュー作『ヘレディタリー』のレビューはこちら。
タイトルは「ミッドソマー」というもので、最初「ん?…ドイツ語…?いや原題も…?」となったのですが、スウェーデン語で夏至祭を表す言葉だそうです(Wikipediaによれば”ミッドソンマル”。この記事のタイトルも本当は”ミッドソマー”にしたかったのですが、邦題決まったようなので)。
お話はまさにこの夏至祭のことで、スウェーデンの田舎で行われるお祭りに来ないかと誘われたアメリカ人大学生が恐ろしい目に遭う、というもの。
いやいやいや、またまた!王道すぎるだろ!!とつっこんでしまった人もいるでしょう(いない?笑) そう、まさに私はその一人で、文化人類学を専攻する「アメリカ人の大学生が知らない街に行くって……絶対怖い目に会うでしょ!あーここで和気あいあいとやってる彼らももう生きては帰ってこれないのか……」とか最初の段階から思ってしまいました(笑)。
そんな本作が最高なポイントは3つ!
ポイント1 黄金律の踏襲
これなんです。オカルトやサイコホラーの王道の展開。
前作のレビューで「オカルトものという既成モデルが現代も通用する型であることを示した」という点が、『ヘレディタリー』が素晴らしかった点だと書きました。新作でも意味なく奇をてらうようなことはせず、ホラーの城跡を踏むことによって観客を意外なほど丁寧に作品世界への導いていくれています。
前作同様に「丁寧なガイドによって作品世界にのめり込める」ことを今回も実践してくれたところで「え…監督やっぱ優しい…信頼できる…///」となり、期待を裏切らなかったポイントその1となりました。狂気に満ち満ちた作品ながら、話についていけなかったり、最終的になんのこっちゃ、となった人はあまりいないのではないかと思います。そう考えると、実に多くの人に門戸を開いている映画なんですよね(ただし表現は全然ビギナー向けでないので、開かれたところに入っていって吐いちゃう人もいそうですが……笑)。
ポイント2 オカルト世界観の深化
で、そんな黄金パターンで人里離れた村に行った主人公一行なのですが、彼らが出会うのは明らかに現代文明とかけ離れた価値観とそれを平気で実践していく村人たちです。最初はこの異常な村を早々に立ち去ろうとした彼らですが、最終的に「興味深い」とか言い出して飲まれていくところも怖い。
『ヘレディタリー』は冒頭から不気味な空気に包まれてはいたものの、実際にオカルトだと気づくのは後半になってから。そしてそれまでに起こったことはすべて禍々しい悪魔崇拝のためだということが明かされるのは一番最後でした。このカルト集団の狂気を前半ですでに包み隠さず露呈させ、その恐怖をより長く、よりじっくりと味わえるのが本作といえるでしょう。
何しろ村中の人が異常な信仰に浸かっているとわかってからも長々と同居するのです。最後にチラ見せどころのレベルでない、生活の細部に至るまでの狂気を見せつけてディープな世界を構築しています。
そして、すでに述べた”わかりやすい”お話も徹頭徹尾この世界観の深化に寄与します。その行き着く先がラストシーン、主人公ダニーの「満たされた」笑顔というのがもう……最高でした。
実はこの主人公の心情の変遷が物語のもう1つの軸になっているところも秀逸。家族との突然の別れ、ほとんど終わりかかっている恋人との関係、それでも寄る辺を求めて彼に依存してしまう弱い自分。これらを経たダニーが最終的に見せる笑顔=カタルシスは狂気そのものでありながら、妙に彼女が「成長した」という印象を与えられます。
加えて、忘れられないのが場面の明るさ。眩しいぐらいの太陽(北欧なので極夜という設定)、さすがにカラフルすぎると突っ込みたくなるような満開の花々。そこに笑顔で参加する人々が「死」を礼賛する、というめまいがするような狂った絵がこれでもかと繰り返されます。この場面とのギャップ効果は『ヘレディタリー』にはなかったものだと言えますね。
ポイント3 グロテスクのパワーアップ
さて、3つ目にしてしまいましたが、最後のポイントは現代ホラーとしての面目躍如、グロ表現です。
『ヘレディタリー』を観た人にどのシーンが一番トラウマでしたか、って聞いたら、もちろんチャーリーの”あれ”ですよね?(笑)今作はもう冒頭からガンガン攻めてきます。
まず、そもそも冒頭から妹のガス自殺、そして村に着いてからの崖からの投身。いや、まだこれ始まって30分ですけども!?という勢いでグロシーンをてんこ盛りにしてきます。個人的には「いやーあれ前回評判よかったんだよねー」って監督ホクホクしてるのではないか、と思えました(笑)。だってグロシーン増やしただけでなくて、明らかに見せつける尺も長いので。。
これはその手のホラーファンも納得のクオリティだと思いますし、さらにそうしたシーンを出しながらもチープになりすぎず、あくまでシリアスな雰囲気を崩さない演出もさすがです(むしろ残酷さに容赦がないことで笑うに笑えないというのがあるのかもしれません)。
まとめ
主に監督の前作を見た人向けの、メインのおすすめポイントを紹介してきましたが、いやはや、長編2作目でこんなにガツンとやってくれるとは思いませんでした。この2作だけでこの監督を巨匠と呼ぶことに、私は全然異論ないです。
すでに示したメソッドを使いながらさらに世界観や物語、ホラーとしての表現を格段にレベルアップさせた本作、ぜひとも劇場で「どっぷり浸かる」のがおすすめです。