2019年の映画たち
本当はこういうの、年末とか年明けに書くものなんでしょうけども……いやもう1月終わりそうになってしまいました。あけまして(ryって言いそうになったし(笑)。
でも負けじと毎年恒例的なものなので去年の映画も振り返っておこうと思います!
ちなみに去年は結構たくさん映画を観ており、新旧合わせて144本でした。新しいのは3分の1ぐらいですかね。そんな感じで。
印象に残った新作/近作
※ 毎年のことなんですが、2019年公開のものだけではなく、鑑賞時で(日本あるいはヨーロッパでの)公開から1年以内という基準で「新作」と呼んでいます。
『Kirschblüten & Dämonen(桜の花と悪霊たち、の意)』
私が大好きな2008年のドイツ映画、『HANAMI』の続編がなんと公開されたのでした。ドリス・デリエ監督作品ってどこか影のあるところがまた良いのですが、今回は結構全編にわたってダーク。オリジナルを影の方に引き延ばした、という印象で、もとの作品が好きな人にはちょっと辛いかもしれない。監督作品としての記名性は健在で1本の映画としても十分観れるものなのですが(日本文化もたっぷり!入月絢さん主演!樹木希林さんも出演!!)、好き嫌いで言うと私はそれなりでした。『HANAMI』の方が断然。
っていうか、今見たらなんと8月に早くも日本公開になっていたんですね。知らなかった。でも、『HANAMI』の続編ってことは触れられてない……これを機にドリスデリエ監督最高傑作と信じてやまないこれのソフト化をぜひ……!
『女王陛下のお気に入り』
好きな監督作品といえばこのひと、ヨルゴス・ランティモス。『籠の中の乙女』以来大好きなひとりなのですが、前年の『聖なる鹿殺し』に続いて新作が公開されて嬉しかったのです。
今回は意外にも(ほぼ)密室での女3人の愛憎劇というテーマ。監督らしからぬ?と思いつつ観ましたが、最初から最後まで引き込まれっぱなしの佳作でした。昼ドラ一歩手前のドロッドロのお話を早すぎず遅すぎず絶妙なテンポで描き切ります。ドラマに終始すると思いきや監督らしいショッキングな演出も盛り込んで、ラストまで本当に飽きない映画でした。
『ヘレディティ』
ここ2〜3年で観たホラーの中で一番好きだった!
『ミッドソマー』
そして続編が早くも公開されるという僥倖!
『残穢』
ホラーといえば、ちょいと古いのですがこれ。上記2作品とはまったくテイストが違うものなのですが、すごく好きでした。日本らしい、と言ってしまうと『リング』に連なるジャパニーズホラー、となってしまいそうなのですが、それらとは少し違う、実録物。いわば2ちゃんねるの”洒落怖”の名作を読んでるような、じとっとする怖さが良かったです。
『ゼット・ブル』
打って変わってのコメディではこれ。スプラッタコメディとでもいうべき系統なんですが、「エナジードリンクを飲んだら脳がプルプルになって凶暴化する」というアホな設定で、企業内で容赦なく殺し合いをしていくのが最高に爽快です。よくある会社内での部門ごとのステレオタイプを描写して、それが即”殺し”につながるのがいちいち笑えました(女性ばかりで井戸端会議をする総務部、明らかに体育会系ばっかりが集まる営業部、意識高い会議をやりたがるマーケティング部、何かと細かい経理部etc…)。
この手の作品ではB級ホラーの↓が最高なんですが、どちらもヒューマントラストシネマ渋谷の名物企画「未体験ゾーンの映画たち」で上映されています。あっぱれテアトルシネマグループ!(いまでも帰国時にたまに行ってます)
『ビッチ・ホリデイ』
ちなみにこれも日本では同じ企画で上映されたもの。欧州でも色んな映画祭に出品されていました。イケイケな女性がトラブルに遭うような軽めの映画かと思って観たらさにあらず。劇中BGMはほとんどなく、主人公らの感情も掴めないままギャングの愛人である女性のやや狂った”休暇”が淡々と映し出されます。予想外なテイストで、私はなかなか好きな作品でした。
『ともしび』
予想外なテイストといえばやはりこちら。劇場フライヤーの感じからシャーロット・ランプリングが老いをほろ苦く、でも優しく表現する……みたいな映画かと思ったのですが、全然優しくありませんでした。説明のほとんどない、ハネケを彷彿とさせる映画です。
老いを描いていることは間違い無いのですが、そこに見えるのは「老い=時間の経過がすべてを解決するわけではない」という容赦ない現実と「老い=そうした現実とあまりに長い間対峙することによるどうしようもない疲弊」。なんてことだ。私は名作だと思いました。
アメリカの社会問題を取り上げた作品もなかなか良いものがありました。
『華氏119』
マイケル・ムーアも老けたなあ、というとの『ボーリング・フォー・コロンバイン』の頃とは批判のテイストが随分変化したのだなあ、という感想。それでも彼の批判精神そのものは健在で現在の状況への大きな不安/警鐘が存分に示されていました。
『ブラック・クランズマン』
エンターテインメントとしてあまりにも良く仕上がっているのでメッセージを忘れそうになりますが、最後に誰にでもわかるように問題提起しているスパイク・リー監督はさすが。いや、それにしても面白かった。白人至上主義の秘密結社KKKに黒人が潜入操作をする、というこのアイデアだけですでに面白いのですが、なんとこれが実話だとは。ひょんなことから潜入捜査になっていく流れもテンポ良く、ハマっちゃったらあとはもうハラハラドキドキ。2時間超、一瞬です。ジョン・ディヴィッド・ワシントンは当然ながら、アダム・ドライバーの抑えながらも人間を感じさせる演技はあっぱれでした。
『バイス』
こちらもエンターテインメントなのですが、思ったほど”ガンガン”ではなかったのはやはりチェイニー=ベイルがずっとボソボソ喋るからか。
何度見ても驚くクリスチャン・ベイルのなりきりぶり、だけじゃなくて今回は周囲の人物もびっくりするぐらい似せてきてるのでとにかくそれを堪能しましょう(個人的にはサム・ロックウェルのジュニアがたまりませんでした…)。
ドイツ映画ではこんな良作がやっていました。
『僕たちは希望という名の列車に乗った』
2019年は壁崩壊から30年だったのですが、今からたった30年しか違わないころにはこんなにも窮屈な世界がまだまだあった、ということをわかりやすく示した感動作(ただしこれは壁すらできる前の話ですが…)。
『アイヒマンを追え!』でも骨太の演出を見せたラース・クラウメ監督ですが、ここでは派手になりすぎない堅実なつくりでありながらも、青春映画としてのきらめきも忘れずに添えています。若手俳優たちの演技も◎。
それにしてもこんな良い映画なのに邦題どうにかならないものか……原題=書籍と同じ『沈黙する教室』の方がはるかに良いと思うのですが……。
『未来を乗り換えた男』
そう、ドイツ映画でいえば、2018年公開のこちらも私は2019年に観ました。ニーナ・ホスとロナルト・ツェアフェルトを再度起用して前作『あの日のように抱きしめて』があまりにもすばらしかったクリスティアン・ペツォルト監督最新作です(なぜ未だに『Yella』が日本でリリースされてないんだ!)。
前作までは同じキャストを固定していましたが、新しい俳優を起用しての新機軸。内容的にもナチスが支配する現代というパラレルワールドの話で、かなり意欲作と言えます。お話としては彼一流の物悲しさが心に残る人間ドラマなのですが、やはり世界観がすごく奇妙で印象に残りました。個人的には(先にも挙げたランティモス監督)『ロブスター』を思い出しました。
『希望の灯り』
上記と同じフランツ・ロゴフスキ主演のハートウォーミングムービー。東ドイツの「いま」をテーマにしていて実は裏にすごく重いもの(東ドイツは統一後も結局西と同じだけの利益を享受できておらず、格差は30年経った今でも残り続けている)があるにもかかわらず、なんだろうこの暖かさは。タイトル通り、それでも前を向いて明日を迎えようとする人々の姿は、なんだかアキ・カウリスマキ作品を連想させます。
『ちいさな独裁者』
あと、こちらはドイツでは旧作ですが、日本では新作。またも実話でびっくり!もの。今年多いなあ。素直に面白いですが、なんだか背筋が寒くなる。エンドロールの現代を背景にしたシーンの意味は一体…?
あ、これはなかなか邦題のつけ方秀逸ですね(原題は"Der Hauptmann(大尉)")。
『パラサイト』
それからもちろん、これ。ポン・ジュノ監督がアジア人初のパルム・ドールを受賞した作品です。昨年の『万引き家族』に続いて貧困がテーマになっていると話題になりましたが、『万引き家族』とはかなり趣を異にしています。どういうことかというと、本作はブラックユーモアとして最高だということ。観るまではもう少し重い調子だと思っていたのですが(予告編を観てもそんなにコメディ感を煽ってなかったように思います)、実際には大半の部分がかなり笑えます。後半〜ラストこそややしんみりとしたものですが(この結びもまた良いのです)、全然構えずに観にいける映画なので、ぜひたくさん観られて欲しいなあ。
『Portrait of a Lady on Fire』
昨年のカンヌ映画祭で脚本賞とクィアパーム(LGBT映画に贈られる賞)を受賞した作品で、日本ではまだ公開されていません。思わぬ出会いから激しいが叶わぬ恋に落ちる2人の女性の情熱を驚くべき静けさで表現した女性映画。『午後8時の訪問者』以来好きなアデル・エネルを目当てに行ったのですが、私は2019年もっとも素晴らしい映画だと感じました。
『Sag Du Es Mir(英題は"You Tell Me")』
これはマンハイム映画祭で。ドイツ版『羅生門』とでも言いたくなる同じ事実を3つの異なる視点から見つめる興味深い作品。映画『羅生門』=「藪の中」と違うのは、そうして見つめた先に一つの真実が徐々に浮かび上がり、映画としてはサスペンス仕立てになっているというところ。日本で公開はされなそうな気がしますが、一件の価値はある作品です。ないと思うけど脚本がすごく良いので他国でリメイクされないかな。
あ、誤解なきようにモノクロでも昔が舞台でも侍ものでもありません(笑)
『ターコイズの空の下で』
映画祭といえばもちろんこれでした!
『ピアッシング』
昔読んでなかなか好きだった村上龍の小説がまさかアメリカで映画化されるだなんて。もとは一般的な世界に得意な人物が登場する話でしたが、映画としては近未来的な異様な世界の印象の方が先に来る感じ。ミア・ワシコウスカが好きなのですが、いつもの小悪魔ぶりを汚れた娼婦にフィットさせるところが本作でもキュート。監督もしかしてニコラス・ウィンディング・レフン好き?
いやはや、書いたなあ一気に。こんなに書けるならもう少しこまめに今年は記事を上げたいな、と思っています……(笑)。