A Dose of Rock'n'Roll

いろんな国の映画について書いています。それから音楽、たまに本、それとヨーロッパのこと。

メルテム(2018)

先月紹介したEUフィルムデーズ。各国高水準な作品ばかりで素晴らしい企画だったと思います。その中から1本。結構タイムリーに書いたのに、投稿するのを忘れていました…(苦笑)。

ポスターにも使われ、今回の映画祭の顔になった作品です。

f:id:coroand501:20200713053554j:plain

メルテム 夏の嵐 : 作品情報 - 映画.com

メルテム ー 夏の嵐 | 上映作品 | EUフィルムデーズ2020オンライン

 

あらすじ:
主人公メルテムはギリシャ人だが母親を嫌ってフランスに移住したという人物。彼女が2人の友人と一緒に故郷に戻ってくるところから物語は始まる。男友達の1人ナシムはメルテムに恋心を抱いており、旅の最中にその思いを告げようとして悩む。そこにフランス語を話せるシリア難民の男性エリアスが現れ、一行はなんとか彼を助けようとするのだが……。

 

 

若い男女が出会う人生の困難。そういうとちょっと爽やかに聞こえるかもしれないが、内容は難民問題が絡んでくるためそれほど明るいわけではない。

主人公の葛藤のもととなっている母親はすでに故人となっており、若者でありながら自分が過去にした決断への後悔や迷いが主題となっている。それでも、彼女や友人が衝突し悩みながらも成長していく姿を描く視点は、そこに登場する大人たちと同様にすごく優しい。

最後には、最初から変わらなかったはずの太陽いっぱいの土地に吹く風を心地よく受け止められる、そんな素晴らしい作品だった。


青い海に陽が降り注ぐ美しい風景をバックにビターテイストな物語が展開されるように、最初から最後までとにかく「ちぐはぐ」なことが起こることがこの映画のユニークさだと思う。

主人公のメルテムはギリシャ人だが故郷を嫌いフラン語でしか会話しようとしないし、ナシムはどうにか思いを伝えようとするのだが、そこでも男女2人のお話ではなく、セクというお調子者がいて常にペースを乱してくる。
そもそも、全員フランス語で会話しているがアルジェリア出身のナシムを含めていわゆる”フランス人”ではないのだ。

さらに、最初はメルテムが母親のパートナーとうまく折り合えないことが悩みの種となるものの、気づけば難民の青年と出会うことで物語のテーマはギリシャにおける難民問題に。

この映画は、こうした「あれ?思ってた方向と違うな……」という戸惑いの連続だ(ただし、脚本が巧みで違和感は全く感じさせない)。そうしたちぐはぐな出会いの連続を経てメルテムが成長した姿を見て、最後に観客は気づくのだ。そうか、これが我々の人生なのだ、と。

 

f:id:coroand501:20200713053652j:plain

監督は驚くほど日本語が上手な方で(最初それでこの映画に興味を持った)、そのインタビューで自身がフランス育ちのギリシャ人であることを語られているのだが、多文化/他文化を自分の肌で経験してきたことが本作からはよく伝わった。自らの体験から出発して物語を紡いでいき、最終的にはそれが多くの人に共通する人生の出来事と感情を描くことに成功している。
佳作。おすすめ。

ロードショーになるかどうかはわからないけど、ぜひDVDスルーされて多くの人に観てもらいたいなあ、と思いました。