A Dose of Rock'n'Roll

いろんな国の映画について書いています。それから音楽、たまに本、それとヨーロッパのこと。

Thirty Three & 1/3 / George Harrison (1976)

タイトル通り、ジョージが“33歳4ヶ月(3分の1)”のときに制作されたアルバム(33&1/3というのはLPの回転数とかけている)。自身が設立したダークホースレーベルから出た初のソロ作品でもあり*1、1976年11月リリース。

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ビートルズ以後のジョージ・ハリスンのソロ作といえば、やはり『All Things Must Pass』だろう。一般的にもロックの名盤とされているので、これだけは聴いたこともあるという人も多いかもしれない。

そういう意味では今回取り上げる本作は、はっきり言って地味な部類と言える。少なくともアップ ル時代の作品を何枚か聴いたファンでなければ手に取らないようなものだと思う。 にもかかわらず、あえて取り上げたいのはこのアルバムが“ジョージ・ハリスン”というアーティストのイメージを塗り替えるのにもってこいだからだ。

 

一般的なジョージに対するイメージといえば、「繊細さ」だと思う。線の細いボーカル、“Something”に代表される美しいバラード。なおかつ、ビートルズのリードギタリストというポジションでありながらも、クラプトンのようなギターヒーロー扱いされないことも、どこか控えめで自らの情熱の表現よりも旋律の美しさを追求しているようなイメージを補完している。

 

しかし、実際にはジョージ・ハリスンという人は意外なほどリズム志向の人だ*2。たとえば、『All Things~』を名盤足らしめているのはその根底に流れるレイドバックしたリズムであることを忘れてはならないし(そのリズムが流れながらも最終的に正統なブリティッシュロックを聴いたという感想にさせてくれるところにジョージの拭い難い個性があるのだが)、遺作にもハワイアンなウクレレ曲が入っていたりする。やっぱりビートルズの一員だっただけあってメロディだけではなくリズムから音楽をどう聴かせるか考え続けてきた人なのだ。

 

そんなジョージがカントリー寄りではなく、もっと都会的なリズム・アンド・ブルースを聴かせてくれるのが本作。なにしろもう針を落とした瞬間から格好良い。ドラムに粘っこく絡みつくベース(リズム隊はウィリー・ウィークスとアンディ・ニューマーク!)に「これがジョージ……?」と驚かされていると彼のスライドギターが何食わぬ顔ですいっと入ってくる。いやもう一回言うが、格好良い。ジョージのアルバムの中でも屈指のイントロである。

同じくファンキー路線では彼のキャリアの中でも最もダンサブルな1曲「This Song」もおすすめ。これに代表されるように本作のジョージはすごく「元気」で、それがこのアルバムのポイントの1つとなる。

まぁ前作『Extra Texture』が元気なかったと言いたいわけではないのだが(でもあんまり元気な感じしないよね?笑)、とにかく晴れて自分のレーベルから作品をリリースできて心機一転のびのびやるぞ!という心意気が伝わってくる出来栄えだ。

個人的にはアメリカ建国200周年のサングラスをかけたジャケットにもそういう“気合い”と“余裕”が溢れていて気に入っている。

 

アルバムのトータル感という面では、ベストと推すファンも多い次作『慈愛の輝き』に譲るものの、曲も粒ぞろい。

“Learning How to Love You”のような美しいバラードや“Dear One”“Beautiful Girl”のような小品も既定路線のジョージとしての聴き所だろう。また、個人的には「都会のジョージを楽しむ」がこのアルバムのテーマなので“It’s What You Value”のようなカラッとしたリズムのある曲を聴けるのも醍醐味。1曲だけのカバー“True Love”“Pure Smokey”でルーツをのぞかせるところもファンとしては嬉しい。

それから”Crackerbox Palace”。B面4曲目という地味な位置に収録されているが、非常にジョージらしい名曲だと思う(アメリカではシングルカットもされている)。曲自体はアコギ1本で弾き語れるような曲調で複雑なコードも一切使われていないのだが、アレンジが凝っている。ブレイクを多用しながら粘るリズム隊、リズムギターにはフェイザーもかけられており*3、さらにブラスを絡ませながらまるで管楽器のように全編でジョージがスライドをたっぷり聴かせてくれる。こうした贅沢なアレンジを施しながら聴いたあとに“こってり”した感触が耳に残らないところに、ジョージの個性がすごくにじみ出ているのだ。
歌詞はジョージが子供の頃に好きだったコメディ俳優の自宅から着想を得たものらしいが、これも「クラッカーボックス宮殿へようこそ、お待ちしておりました」と少しミステリアスで示唆に富んでいて良い。

 

この“Crackerbox Palace”(お城みたいな自宅「フライヤーパーク」)も含めて本作からはたくさんプロモーションビデオが撮られているのもポイントだ。のちに映画製作会社も立ち上げたジョージだが、全体的に彼の“お笑い趣味”が炸裂したPVばかりで、楽しい。中でも「This Song」は曲のノリをさらに拡大するようなモンティパイソン調ドタバタが展開されており一見の価値あり(公式はこちら)。*4

 

そんなダークホース時代の1作目、『33 & 1/3』。個人的にはジョンの『Mind Games(ヌートピア宣言)』と並んで「意外な面がのぞける名盤」なのだが、2017年リマスターがかなり入手しやすく2004年リマスター版は配信でも手に入る。『All Things~』や『Living In the Material World』を聴いてさらにジョージを深めたい、という方はぜひ手に取ってみてはいかがだろうか。

 

まずはノリノリのこちらから!

youtu.be

*1:このレーベル自体は2年遡ることの74年に設立されており、ジョージ自身も『Dark Horse』というアルバムを出しているが、契約の関係で次作『Extra Texture』まではアップルからリリースされた。

*2:これは白人が演る黒人音楽をとことん追求し新しいジャンルを切り開いたビートルズのメンバーすべてに共通していることだ。ウィングス時代にもリードベースをぶんぶん言わせてたポールはもちろんのこと、ジョンで言えば『Mind Games』『Walls and Bridges』あたりがわかりやすいか。リンゴは意外と若いころのソロ作でリズム的な意欲が見られないが90年代以降の作品はどれも非常に面白い。ついでに近作を紹介した記事はこちら

*3:MXRのPhase 90ではないかと長年疑問なのですが、そういう写真を見たこともなく、情報お持ちの方はぜひ教えてください。

*4:"True Love"だけ公式でないのですが、一応リンク載せておきます。これが一番お笑い一直線でもとの映画をジョージが真似してるんですが、全体的になぜかビートルズ時代の悪ふざけに見えてくる(笑)。