A Dose of Rock'n'Roll

いろんな国の映画について書いています。それから音楽、たまに本、それとヨーロッパのこと。

Sentimental Journey / Ringo Starr (1970)

映画は結構ストックがあったりするんだが、音楽のレビューは全然なく、じゃ何かとりあえず書かないとなあ、と考えてみた結果、これが最初に書くのにいい気がした。
 
 

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リンゴ・スターのソロ1作目である。今日これを取り上げるのはなかなか時代に逆行したチョイスだと思うものの、私は個人的に大好きな作品。リスナーキャリア、というものが仮にあるとすればその随分と初期に聴いたということも関係しているのかもしれない。
 

 

 
ドトン…トン…と汽車がゆっくりと出発するようにベースが流れ出しアルバムが始まる。調べたら1944年発表の曲だったが、調べなくてもこれが1970年に最新の音じゃなかったことは分かる。ソロキャリアの最初にあえて”ゆっくりと”旅を始めたところがリンゴらしい。別にこれが「時代におもねることなく」みたいな力み方がないのがリンゴのよさだ。逆にそういう彼のいいところを忘れて時代に追いつこうとした作品は基本的に失敗している、と私は思っている。
 
いつ聴いても飽きないあたたかさがあり、さらにアルバムとしては非常に明快でわかりやすい。1970年というロック的には激動の年*1のセンスで、あえて20年以上も前のロック以前のナンバーを吹き込んだからなのかもしれないし、もちろん全てメロディが良いことはお墨付きだから、単純にそれで飽きないというのもあるだろう。
 
ところで、このアルバムは発売当初から「遅れて」いたわけで、未だにいたるところで「趣味性の強い」作品とだけ評されている。ただ、私はそれだけではない、と思う。確かにアイデアとしてはリンゴの趣味一発だったかもしれないが、本人も意識していなかったであろう聞きどころがこのアルバムにはある。それは、リンゴの「現役感」である。
実際に自分で楽器を演奏したこのある人なら分かると思うのだが、音楽に触れていない時間があると楽器を演奏する、というか音楽に対する感覚は本当にすぐに鈍ってしまう。残念ながら、リンゴのソロ諸作品にはファンから見てすらマニア以外は聴かないでいいアルバムもそれなりにある。彼が酒とパーティに耽溺していた時期に、ロックミュージシャン/バンドマンとしての「現役感」が作品からさっぱり感じられなくなったのは”そりゃ当然”のことだ。そういう意味で、このアルバムはつい数ヶ月前まで世界最高の水準だったバンドに在籍していたリンゴというミュージシャンの現役感が一番あふれているように思う。
 
異様に地味なジャケット(リンゴの生家の近くのパブらしい)含めて聴けば聴くほど愛着がわく作品。リンゴのソロ聴いてみようかな、と思う方にはおすすめできる一枚だ。
 
 
 
 
書きながら思ったけど、これBGMとしても邪魔しなくてなかなかいいな!
 

*1:この年、ジョンは『ジョンの魂』、ジョージは『All Things Must Pass』で実質ソロデビューでいきなり70年代型ロックのあり方を示した。レッド・ツェッペリンは3枚目を出しているし、ディープ・パープルは『In Rock』で、ブラック・サバスは1st、2ndでハードロックの原型を示している。また、クラプトンは同じ年に『Layla』を、翌年にはストーンズが『Sticky Fingers』、ポールが『RAM』という傑作を出している