A Dose of Rock'n'Roll

いろんな国の映画について書いています。それから音楽、たまに本、それとヨーロッパのこと。

パターソン(2016)

前回はジャームッシュのドキュメンタリーについて書いたので、今回はジャームッシュ監督最新作を。こちらは日本では8月26日から公開のようです。

 

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パターソン : 作品情報 - 映画.com

 

あらすじ: 詩をこよなく愛する”パターソン市の”バスドライバー、パターソンのお話。朝起きて仕事におもむき、同僚の愚痴を聞いて弁当を食べ、家ではちょっと風変わりな妻が待っていて愛犬の散歩に出かけたら一杯ひっかけて帰宅する。そんな全く変わることのない日常の中でも、奇妙な偶然を発見したり街の人々の会話に耳を傾けながらパターソンは毎日詩を書き溜めることが楽しみだ。長く妻に進められていた詩集の出版を彼はある日、ついに決断するが……。

 

*** 

 

始まってしばらくはセリフも多めで監督作としては”意外とポップだな”という印象だったものの、最後まで見るとさにあらず。すごく奥の深い映画だとわかる。バスドライバーの日常を淡々と描く本作は、一見ちょっと退屈だけど終わってみると溢れる詩情に胸が満たされている、そんな暖かい作品だった。日常の何気ないことを題材にして詩をつづる。つまり、ジャームッシュ監督が考える「詩とは何か」であって、彼自身の芸術感を表明した作品だと言えるかもしれない。そうした芸術への憧憬をことさらひとつの街にこだわって、その中にユニークな人物を配置して生き生きと語らせていく。ジャームッシュ監督の真骨頂なのではないか。

 

とにかく見所としては「詩」。ウィリアム・カルロス・ウィリアムズをこよなく愛するパターソンがパターソンで(これは彼の有名な、同市で書かれた詩集のタイトルでもある)詩を書く。って、よく考えるとこれでもかってぐらい単純なオマージュなんだけど、だからこその妙な明るさが気持ちがいい。そしてそもそもオマージュに足るだけの詩の良さ。スクリーンで詩を味わうって、ありそうでなかなかない体験なのでは。

 

ちなみにもちろん物語はあって、それはそれで面白いのでご期待を。個人的に『リミッツ・オブ・コントロール』はすごく難解に感じたんだけど、今回はそんなことなく。もう一度見たらまた発見がありそうで(繰り返し出てくる双子のモチーフについて深掘りしたいな)それでいて1回目でも十分満足できる作品でした。

 

最後に俳優陣を。

 

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Adam Driver | Variety

超個人的に2015年末にカイロ・レンを演じたことで勝手に地に落ちたアダム・ドライヴァーを見直させてくれる機会になりました(笑)。カイロ・レンを憎むあまりアダム・ドライヴァーまで嫌いになっていた私……いや本当この映画見てよかった(笑)。風変わりな人物に囲まれて怪訝な顔を連発するパターソン、最高でした。そしてこうしたインディーズ風味にもよく合うひとなんだな、と確認。だがカイロ・レンは許さないぞ

 

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Adam Driver Was A Marine And Went To Juilliard Before Fame - Business Insider

(ハンソロ感ある…だと…!?)

  

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公式Twitterより

 

それから白黒が大好きできまぐれな奥さんの愛らしさといったら……!(そしてそれにいらついたりせずに優しく見守るパターソンとの関係、なんてハッピーな家庭なんだろう、と)

ゴルシフテ・ファラハ二さん。あれ、このひと誰だったかな〜と思っていたら、アスガル・ファルハーディー監督のベルリン銀熊受賞作『彼女が消えた浜辺』に出ていたイランの女優さんでした。今回は溌剌とした演技で画面いっぱいに魅力をふりまいています。

 

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Critics Corner: ABOUT ELLY | EatDrinkFilms.com

『彼女が消えた浜辺』にて。これは名作なのでぜひ!

eiga.com

 

それにしても、英語うまいですよね。Wikipediaによれば現在はパリ在住とのこと。それからカップケーキ、食べたくなりました(笑)

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Golshifteh Farahani Photos Photos - 'Paterson' Photocall - The 69th Annual Cannes Film Festival - Zimbio

 (監督と)

 

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Paterson | Mountain Xpress

それからすばらしい助演をしてくれたのが犬のネリー(役名はマーヴィン)。いやもう、彼がいないとこの映画は成り立ちませんでした。パルム・ドッグ万歳!

 

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Paterson | Mountain Xpress

それからもちろん、永瀬正敏!!まさかここで出てくるとは………。いやもうめちゃくちゃいい役どころです。日本のみなさんはぜひ期待していてください(笑)