A Dose of Rock'n'Roll

いろんな国の映画について書いています。それから音楽、たまに本、それとヨーロッパのこと。

A Ghost Story(2017)

2017年もあとわずかですが、すばらしい映画館納めができたのでギリギリで書いておきます。今年も本ブログに訪問いただき、ありがとうございました!

 

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A Ghost Story (2017) - IMDb

 

事故で旅立った本人が幽霊として恋人のいる部屋に戻ってきて淡々とその様子を眺めるというお話。

ビジュアルのインパクトからスイスアーミーマンみたいな)ちょっとシュールな、キワモノっぽい作品にうつってしまうかもしれないが、中身はすごくピュアな、人生とは、死とは、愛とは、を問う詩的な映画。

 

!!!以下、ネタバレが含まれます!!!

 

 

 

 

ほとんどセリフはなく*1、一番の感情の盛り上がりを印象的な1曲で表現しているところも(主人公はミュージシャンなので自作曲という設定)。よく見れば、生きるとは何か、ということを「大切なひとを失くす」という形で考えていて、非常に王道なテーマなんだけど(もっと言えばそれを老いてからではなく2人の人生が始まったばかりの段階で、という点すら今ではそう特異な物語ではない)、それを「失われた側」から見つめるというのが稀有な試み。

 

こういうと、結構しんきくさい映画、あるいは少し退屈な印象があるが、先に書いたのと逆でビジュアルのインパクトがそれを救っている。あれがなかったら退屈、というよりこの映画の持つ感情にあまり共感できずに終わったかもしれない。そういう意味で「幽霊」は緻密に考えられた映画装置なのだ。

 

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A Ghost Story: David Lowery on Why He Kept the Film Secret | Collider

 

最初2人の様子が映し出されたときには切なすぎて泣くかと思ったんだけど(アスペクト比を縮めて正方形に近づけることでよりホームヴィデオ感を出している”うつしかた”もいいんだこれが)、意外とユーモラスな幽霊の見た目・振る舞いや妙にダークなBGMを使うところで悲しみだけに逃避させないところが好印象。もう1人の幽霊との出会い・会話のシーンは笑っていいところだと思うんだけど、それが実はすごく大切で。あくまで表現しているのは「大切なひとと一緒にいれない悲しさ」ではなくて、人生とは?生きることとは何だったのか?という問いなので「あー悲しい」だけで終わってはいけないのです。

 

そのうえでのラストシーン、もう胸がいっぱいに。実は個人的には、核となる”彼女が隠したメッセージ”の中身について知りたくて仕方なかったんだけど、それは「彼だけが知る権利がある」ことを最後まで貫いたことがこの映画の清々しさにつながったと思う*2とってもいいエンディングでした。

 

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Art house: A Ghost Story – Casey Affleck, Rooney Mara in reflective, metaphysical drama about time’s passing | Post Magazine | South China Morning Post

 

2017年、映画館で観た最後の作品になったけど、とても快い締め方に。日本でもはやく公開されますように。

 

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Casey Affleck Honored at Karlovy Vary International Film Festival | IndieWire

今年は大活躍のケイシー・アフレックさん。

 

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How to Wear Purple Lipstick Like Rooney Mara - theFashionSpot

いまだにスクリーンで美しい姿を見ると「いやあドラゴンタトゥーの女、ほんとすごかったな…」と思い出してしまうルーニー・マーラさん。本作では、パイをひたすら食べ続ける長回しのシーンでの表現力がまさに圧巻!魂を感じました。

 

 

 

*1:なお、セリフはほとんどないものの中盤で、人の世界の輪廻(あるいは世界と神の存在)について突然長尺で非・主役級の人物に語らせるところがあって、あんまり関係ないけど『ハンガー』を思い出した。これは名作。(こっちの長尺のセリフは主役のマイケル・ファスベンダーだけど)

eiga.com

*2:噛み砕くと、その”彼の”世界を観客が安易にのぞけてしまうのは台無し。もっといえば、そのメッセージの中身が観客それぞれに違うことに意味があるので。