A Dose of Rock'n'Roll

いろんな国の映画について書いています。それから音楽、たまに本、それとヨーロッパのこと。

マザー!(2017)

ダーレン・アロノフスキーの新作、『マザー!』、相当タフだった……。かなり映画愛の強いひとでない限り安易に観にいくことはおススメできません。。

 

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マザー! : 作品情報 - 映画.com

 

↓↓↓ ネタバレ、もなんですが、ネガティブな評価をしてるので好きだった人は読まないほうがいいかも…。 ↓↓↓

 

なにがどうって、とにかく不快。特に最初の1時間は不快不快不快の連続。

自分のプライベートに見知らぬ人が上がり込んでくる、頼りになるべき家族(夫)は味方してくれない、さらには自分の空間におけるルールがふみにじられる、それでもってさらにはその相手に自分の生き方についてあーだこーだ上から目線でお説教される、いやこれ何の苦行なんですかと

ストレス耐性をつけるために週に1回はファニーゲームを見てメンタル鍛えてますって人以外にはどう見てもキツすぎる。ダーレン・アロノフスキーの映画はいつも主人公の精神にゆさぶりをかけるためにある程度不快な手段を使ってるけど、今回は段違い。そこでのエド・ハリスとミシェル・ファイファーのいやらしさといったら!特に後者にはなんども「出ていけ!」と映画館で叫びそうになったほど。もちろん監督の意図通りなんだろうし、名演技、なんですけどね。。。

もしかしたら堪えないひとにはそれほどでもないのかもしれないが、私はわりと”自宅のルール”(土足で上がらないとか本棚を整理するとか)がある方の人間なのですさまじいストレスでした。潔癖症の人が強制的に汚物の映像を見せられるような。途中で3回ぐらい「あれ?金曜の夜に何してるの…結末なんてどうでもいいから出た方がいい」と思いました。

結論としては最後まで見てよかった…と、5勝4敗1引き分けぐらいで思うに至っています。でもそれぐらいギリギリな作品なので、精神的にキツい(後半は映像表現もグロくなる)のが苦手な方は避けた方がいいかと。

 

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Darren Aronofsky: mother! is close to Black Swan ‘in spirit’

 

それにしても、すさまじい女性性の蹂躙だこと。「母性とは?」というタイトルそのものの問いに対するひとつの解を表現したのだろうが、それをイコール女性とすることが恐ろしく時代錯誤だと思うし(言うまでもないが女性の存在とは母になるためだけではない)、ここで提示されている母性はすべてを捧げて生命を再生するというものだから、もう手に負えない(母性が女性性のひとつであることは間違いないが、それが犠牲だとするなら女性とは単に犠牲になるためだけの存在となってしまいそれはもう人間性の否定そのものではないか)

 

端的なシーンとしてワーストだったのは、あれだけ自分という存在を蹂躙されながらもそこから救い出そうともしてくれなかった夫に懇願、無理やり犯されて快楽を感じてしまい子供ができたらやっぱりハッピー!って、、、女性に何の恨みがあるんだよ(ちなみに前半と後半の転換点になる部分です)

 

もしかすると監督はこうした極めてグロテスクな(母としての)女性像を描くことで、それへのアンチテーゼを唱えたかったのかと思ったのだが、んーそうはさすがに読めない。女性憎悪的な作品であって、個人的には「ダーレン、最近ラース・フォン・トリアーに傾倒してるのでは…?」という気がした。観ている最中から(直接的な引用はないものの)『アンチクライスト』を思い出していた。

  

そう、アンチクリストなのだ。この抹香臭さ。ダーレン・アロノフスキーってそういう人だったっけか…?

つづられる物語としてはひとりの男の誕生と再生の物語。「マザー」というのは、彼にとっての母なのだ。その彼に対して最後の最後まで犠牲とされる、あるいは文字通り献身するのが「母」である、というのはなんだか中世のキリスト教?的なくささがあった。

そうした映画の主演に、これまでどちらかというと「強い女」を演じることが多かったジェニファー・ローレンスを据えたのも(後半の怒りの演技を見ると納得はできるが)、女性憎悪を感じざるを得なかった。

 

もう1つ「ダーレン・アロノフスキーってそんな人だっけ?」と思わせるのは撮り方で。登場人物を大写しにして揺れ動く精神の不安さを表現した映像は健在で、後半の戦争描写(戦争になっちゃうこと自体にも驚いたが)もまだ許容なんだが、それを経てからの…大爆発…?なんかもう、イライラしてきて一気にぶちこんじゃいました★みたいなところが真相なんじゃないかと勘ぐってしまう。

 

決して駄作とか残念な作品というわけではないのだが、極めて大きい負のパワーがねじこまれた作品だと、思った。それから、ダーレン・アロノフスキーという監督がそれまで割と好きだった私としては、結構残念な作品でした(トリアーの映画はレベルの高さは認めるが言ってることにはまったく共感できないタイプです)

 

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Darren Aronofsky Says Knowing Too Much About Mother! Might Freak You Out | W Magazine

(当たり前ですが)最後まで観るとこのポスターしっくりきます。

 

 

 

本文に出てきたので……。史上最高の不快映画です(グロ描写をしないで精神的に深手を負わせる部門)。私は観たときに吐きそうになりました。でも、なぜか今でも大好きです。

eiga.com

 

あとこれもキッツイ。でも、彼の作品群の中ではもっとキツいのもたくさんあります(個人的には『奇跡の海』が一番…?)。 eiga.com