A Dose of Rock'n'Roll

いろんな国の映画について書いています。それから音楽、たまに本、それとヨーロッパのこと。

Give More Love / Ringo Starr (2017)

現在来日中のリンゴですが、前回のオールスターバンドに続いて、最新アルバムについても少し書いておこうと思います。

 

『Give More Love』Ringo Starr (2017, UMe)

f:id:coroand501:20190401083729j:plain

Produced by Ringo Starr

Wikipedia

Billbord

公式ストア

 

 

総評

2017年9月にリリースされたリンゴにとって通算19枚目のスタジオアルバムである。最初に結論から書くと、ここ10年の彼の作品の中でもっとも充実した仕上がりではないかと思っている。

そう書くと、ちょっとそれまでの作品、具体的にいえば名プロデューサーマーク・ハドソンから製作途中に離れた『Liverpool 8』以後何枚も駄作を作っていたように聞こえるのだが、そうではない。『L8』を含めてなんと5枚もあるそれらの作品も、聴きどころはあった。ひと言でいえば、リンゴがやりたいことをやってるところ。これまでプロデューサーの色に染まることを基本としてきた彼が、キャリアの中で一番1人でアルバムを作っている”感じ”があるのがこの10年だったのだ。

 

HDレコーディングという技術の進歩によるところもあるだろうが、それだけではないだろう。共同プロデューサーとしてもクレジットされているブルース・シュガーはハドソン以降のスタジオワークでのパートナーといえそうだが、しかし彼の役割はこれまでのリンゴの作品における”プロデューサー”とはかなり違ったもののように思われる。これが意味することは、アーティスト自身がやりたいことを見つけたらそれを具現化できるようになったということ(全キャリアを聴いてきたファンとしてあえて言っておくと、そもそもやりたいことがなかったのにアルバムを作っていた時期もあっただろう)。

一体、元ビートルズという一流ミュージシャンを前にして何をいうか、という話であるが、90年代後半まで他の楽器はおろか作曲もそれほどしてこなかった彼である。実はこれって、彼のミュージシャンとしての進化が還暦をとうにすぎてもまだまだ続いてるという驚くべきことを示しているのだ。

最高のオープニングから飽きさせない展開

リンゴ自身が「気が向いたら仲間を呼んで自宅のスタジオでジャムって曲を書いて、録音する。それだけだよ」と語っているように、確かにそうした作品は「気の向くまま」録られていて、尺も短く音作りもシンプル。ファンとしては楽しみではあるものの、マーク・ハドソン時代の作品の充実ぶりを知るものとしては若干の食い足りなさがあった。

そこでの『Give More Love』である。シンプルな音作りやリズムやロック以外への興味はそのままに、一層のまとまりを見せたのが本作。

最大の理由の1つが冒頭の"We're On The Road Again"で印象をかっちり決めたこと。スティーヴ・ルカサーのちょっと複雑だがロックンロールなリフと縦横無尽に弾きまくるソロ、クラッシュの活きもよく軽快なピアノとともに走っていくリンゴのドラム、そして底流でうねりながら火を噴くポール・マッカートニーによるベース。すべてがモダンにチューンナップされた完璧なロックンロールトラックだ。

個人的には、リリースに先駆けて配信されたこの曲を聴いて「おっ今度のアルバムはなかなか良さそうだぞ」と感じたのをよく覚えている(そんな曲だけに未だにライブのセットリスト入りしていないのは残念でならない…)。その際のインタビューによれば、「ランチを食べて楽しかったからそのまま録った」ということだが、他のトラックよりも”一流ミュージシャンによる熱いセッション”の雰囲気がよく伝わってくるところも◎(”トレードマーク”のシャウトは最初ちょっと奇異に感じたけどすぐ慣れます(笑))。

 

そんなライブ感あるオープニングでリスナーをグッと掴み、そして離さないのがこの作品だ。屋台骨をしっかり作れたこともそうだが、どれもなかなか曲が良い。10("Give More Love")までが新曲で構成された「本編」なのだが、リズム遊びあり、バラードあり、彼のトレードマークのカントリー調のポップあり、と最後まで意外なほど聴き手を飽きさせない。そのどれもがリンゴという「稀代の歌い手ではない」人がメインボーカルなのだから、考えてみれば驚くべきことだ。とにかくどの曲でもリラックスした伸びやかなボーカルが響き、さらに長年一緒にやってきたスタジオミュージシャンによる演出もぬかりなく、全体として明るく気持ちの良い仕上がりという印象になった。

個々の曲とゲストについて

個々の曲について少し解説しておこう(順不同、1.は割愛)。

ロックチューンで幕を開けたと思ったら早速リズムで遊び出す2. "Laughable"のような曲では、最近のリンゴ作品で顕著だったデジタルならではの無表情さがうまく活かされている。ここで共作・ギターで参加したピーター・フランプトンだが、4. "Speed of Sound"では、これまたトレードマークのトークボックスによるソロをこれでもかと聴かせてくれている。

そのつながりでいえば、ブルージーな7. Electricityではタイトル通り全編ボーカルに大胆なエフェクトを施して驚かせてくれる。

3. "Show Me the Way"は上記インタビューでも触れられているバラードだが、こういう歌い方も堂に入ったものだね。9. "Shake It Up"のようなオールディーズ調のロックンロールも演技がかなりハマってきて、バラードともども『Vertical Man』(98)あたりと聴き比べておきたいところ。

お得意のカントリーテイストは5. "Standing Still"8. "So Wrong for So Long"で。これだけで1枚作っては?と思ったけど、40年前にやってるんだった!(『カントリー・アルバム』)やっぱりアルバムの中に数曲というのが最適な位置付けなのか?それにしても、とりわけ歌は絶対に今の方がいい。

ちなみにここでもクリアな女性ボーカルを聴かせるエイミー・キーズはここ何年も常連で、もはやリンゴのハウスバンド(”Roundheads”)の仲間入りといえるかもしれない。5.はそんなRoundheadsの一員、ゲイリー・バーとの共作。

6. "King of the Kingdom"もほんのりカントリーを感じなくもないが、あくまでファンキーに。こういう味付けのうまさが年季の入ったミュージシャンというところ(そしてそこをあえて曖昧にしてしまうリンゴのドラミングの持ち味でもある)。ちなみに作曲はヴァン・ダイク・パークス(リンゴと共作)。そして印象的なワウ・ギターはデイヴ・スチュワート。サックスはオールスターズにも参加したエドガー・ウィンター、ベースはネイザン・イーストだから、1.に負けず劣らず豪華なセッションだ。

個人的に本作収録の中で一番驚いたのが10. "Give More Love"。なんと2003年の『Ringo Rama』に収録のジョージ・ハリスンへの追悼歌"Never Without You"の改作なのだ。これは驚いた。だって本人が同じところで同じフィルを入れてるぐらいだもの(笑)。あれっと思いブックレットを穴があくほど見直したが記述や説明はなし。まぁ、リンゴ自身気に入りの曲だったということなのか。なお、出来栄えは当然クラプトンも参加した前作の圧倒的勝ち。

その他のゲスト

リンゴのアルバムといえば豪華なゲストがお決まりだが(それにしてもそれを19枚も続けたのはどう考えてもすごい)、既に上げた以外では、オールスターズなどのライブでもおなじみグレッグとマット・ビソネット、義兄弟のジョー・ウォルシュ、こちらもおなじみドン・ウォズ、ティモシー・B・シュミットあたりか(それにしてもイーグルスのベーシストであるティモシー・Bをコーラスのみで起用とは…!)。

f:id:coroand501:20190401083146j:plain

Ringo Starr Talks About Collaborating Again with Paul McCartney - Vision TV Channel Canada

Re-Do 

ボーナストラック的に入っている4曲の再録曲も見逃せない。ひょっとするとビートルズファンだとこれにつられて買ってしまうかも?

リンゴはもともと自作*1やビートルズ時代の遺産を曲中に仕込んだりよくしていたのだが、ここまでの規模で収録されたのは最多(12. "Don't Pass Me By"には最後"Octopus's Garden"が含まれているので5曲か)。こういう楽しみ方ができるのも、やって許されるのもリンゴだけ。まさにキャラ勝ちしているわけです。

11. "Back Off Boogaloo"にはアルバム中唯一ブックレットにコメントが載っている。それによれば、オリジナル・デモテープが出てきて聴いてみたら面白くてそこに新しい音を重ねたとのこと。ここでは”エキスパート”としてアンソロジープロジェクトの立役者、ジェフ・リンまで引っ張り出している。

リンゴ、この曲好きなんだなあ*2。シングルとしては全英2位なので立派な大ヒット曲なのだが、リフだけで乗り切ってるようなところがあり、個人的には名作!とは思っていない。それでもこの同じリズムを延々と続けてロールさせていくこれが気に入りというのは、いかにもドラマー:リンゴ・スターらしくて、なんだかこそばゆい。

12.に加えてリンゴの最大のヒット曲の1つ14. "Photograph"Vandaveerというケンタッキーのフォークグループと共演している。彼らは2016年のピースイベント(リンゴは毎年自分の誕生日にPeace & Loveを発信するイベントを開催している)に参加したようだ。オリジナルにあったような派手さはないが、上品でなかなか良い再録に仕上がっている。

実は一番驚いたのは13. "You Can't Fight Lighting"。いやその理由は、Alberta Crossという若手と共演したことでもストックホルムでレコーディングしたことでもない。この選曲についてだ。この曲はもともと81年の『Stop and Smell the Roses』セッションで録音されたものの紆余曲折を経て収録されなかったトラックである。そもそもこのアルバム自体が不遇で、現在ではCDも入手困難というドマイナーアルバム*3。これもリンゴの単独作なので思い入れがあるのだろうか。そういえばこれも同じリズムが延々続くタイプである。オリジナルはポールのプロデュースだったが、出来栄えはやはりこちらの方が良い。主にボーカルの冴えが当時とは違うのだ。

 

そんなわけで、またも大幅に予定を超過して想いを書き連ねた『Give More Love』。2019年のライブでは披露してくれるでしょうか?

 

 

…… 

あっ実はこれがアルバムレビューの2回目なので、前回も今回もリンゴの作品(前はデビュー作)になってしまった。もう少し他の音楽の話もしたいと思っています…。

 

 

*1:近作では『Ringo 2012』が"Wings"、"Step Lightly"の2曲の再録を含む。

*2:『Stop and Smell the Roses』ではラストトラックとしてビートルズナンバーをふんだんに取り入れ早くも再録している。92年の第2期オールスターバンドや05年の『Soundstage』など、ライブでも何度もハイライトとして演奏されている。

*3:公式CD自体は短期間だが販売されたので未イシューというわけではないが、もう長い間『Old Wave』とともに彼のソロアルバムコレクションの最後の砦として君臨し続けている(笑)。中身は良いのでLPを入手されたし。……いや、最近は配信か